人見知りの私が社長になるまで 第九話

苦節6年、念願の月収100万円達成!!
一括返済、サラ金地獄脱出に成功!!
気分は最高の山本、しかし・・・
奈落の底へ突き落とす、Nからの電話。
怒り狂うN。必死に耐える山本。
なぜいつも穏やかなNが、怒り狂ったのか?
山本は、どんなルールを破ってしまったのか・・・・・

信頼・尊敬・憧れ、そんなものは全て脆くも崩れ去りました。
人は、恐ろしいものだとあらためて思い知らされました。
何を信用してもいいのか、わからなくなりました。

それほどまでに、電話口でNさんは、私のことを、汚く罵ったのです。
テレビ電話ではありませんから、顔は見えないはずですが、
心のスクリーンでは、醜く歪んだNさんの顔が浮かびあがりました。

このまま、事務所に戻らず、逃げようと思いました。
しかし、逃げることは出来ません。
まだ、全てのインセンティブを手にした訳では、ないですし、
仮に逃げても、これほどの好条件で、働けるところがないからです。
逆に言うと、悲しい事に、これ位しか戻る理由が見当たりませんでした。

そもそも、何故、Nさんが怒り狂ったのか?
それは、前回の最後にも話しましたが、Nさんが決めたルールを破って
しまったからです。

それは、どんなルールだったのか?
破って当然のルールでした。
他のメンバーも、誰かが破ってほしいと思っていたルールです。

私が、先頭を切って破ったのです。

そのルールとは、「お金を扱うのは、事務員であるAのみ」です。
つまり、全てのインセンティブは、事務員のAさんが現金で払う。
「Aさん以外は、通帳、現金に近づいてはならない」というルールです。
なんの意味があって、決めたルールかは、わかりません。
しかし、Nさんはそこにこだわったのです。

別に問題ない、と思われ方もしれませんが、一つだけ問題がありました。
銀行から、事務所までお金を持ってくることです。

全員分のインセンティブですから、けっこうな大金です。
銀行からおろして、事務所にお金を持ってくるのは、当然、事務員のAさんの役目です。

場所は、大阪です。ひったくり全国ナンバー1の土地柄です。
「もし、事務所に来るまでに、ひったくられたらどうしよう」
私だけでなく、みんなそう思ったようでした。
Aさんは、小柄で細身です、襲われたらひとたまりもありません。
しかも、お世辞にでも、しっかりしているとは言えない女性でした。
「ぽわーん」とした感じの天然です。
もし、ひったくり犯が狙いを付けたとしたら、絶好のカモです。
Aさんの身も危険です。みんな大丈夫かなと心配しました。

もし、万が一でもあれば、2ヶ月間の努力が水の泡です。
目前にまで迫った、月収100万が、消えてしまいます。

そのことをNさんは、察知したのか、前日の帰り際、私に向かって
「山本、明日、Aと一緒に、絶対に銀行に行くなよ」といいました。

しかし、次の日、護衛をする為、Aさんと一緒に銀行へ行きました。
当然、Aさんに口止めをしたのですが、何故かNさんに話したようでした。
もしかしたら、Nさんが、かまをかけたのかもしれませんが、とにかくバレたのです。

Nさんの怒りは、事務所に戻ってからも、まだまだ延々と続きました。

自分自身、悪いことをしたとは思っていません。
むしろ、当然の事をしたと思っていました。
他のメンバーも、みんなそう思っているはずです。

しかし、一方的に怒鳴られている、私を横目で見ながらも
誰も助け舟は、出してくれませんでした。
いつしか、会社は、Nさんのワンマン体制になっていたのです。

とにかく、黙って時が過ぎるのを待ちました。
何を言われても、黙り続けたのです。
それが一番の解決方法だと、知っていたからです。
なぜなら、昔からずっとそうしてきたからです。

怒り狂っているNさんを見ていると、昔の記憶が甦ってきたのです。
Nさんの顔が、ある男の顔とダブって見えてきたのです。

そう。ある男とは、昔の母親の男(彼氏)です。

母は、私がまだ小さいころに、離婚しました。
それからは、夜のスナックで働いて、母一人子一人で育ててくれました。

私が、小学校5年になったころ、母親に男が出来ました。
お店のお客さんです。語弊があるかもしれませんが、場末のスナックの女に
転がり込んでくる男は、ロクな男はいません。
案の定そうでした。

最初は仕事をしていたようですが、
家に転がり込んでくると同時に、働かなくなりました。
つまり、結果的には、母が養っていたのです。
そして、とても横暴な男でした。
少しでも気に食わないことがあると、母に手を上げていました。

身長は、180㎝以上ある、大男です。
当時の10歳の私では、とても腕力ではかないません。
手を上げられる母親を見ながら、怖くて震えている自分の無力さを呪った事も
度々でした。

そして、その横暴さは、時折、私にも向けられたのです。

男は、機嫌が悪いと、決まって、八つ当たりをしてきたのです。
正確にはわかりませんが、愛情のような物は感じなかったので、
おそらく八つ当たりだったと思います。
しかも、認めたわけでもないのに、父親づらをして、もっともな理由を付けてです。

言うことは決まって「勉強しろ」でした。
それを言われると、すぐにテレビを消して、勉強を始めないといけないのです。
すこしでも、モタモタしていると、次の怒声が飛んできます。
とにかく、やる気が無くても、勉強するフリをしました。

最初のころは、口答えもしました。
しかし、少しでも口答えしようものなら、大変でした。
頭ごなしに押さえつけられるのです。
殴られかけたこともありましたが、母が身を挺して止めてくれました。

「この子は、誰にも手を上げられることなく、今まで育ててきたんや、もし殴ったら殺してやる」

母の気迫に圧倒されたのか、男は私に対しては、手を上げようとは二度としませんでした。
しかし、機嫌の悪いときは、理不尽な理由で、怒りをぶつけられる事は、度々です。
例えば、トイレの鍵を閉めただけで、怒られた事もありました。
「おまえは、オレを信用していないのか」と・・・・・・・。
でも、口答えはしませんでした。
自分さえ、黙って我慢すれば、男の機嫌もやがては直り、母親が殴られることもないからです。
その当時、心に強く誓ったことがありました。
絶対に、こんなしょうもない男にはならないと・・・・・・・。

今回の出来事が、そのときの記憶と、ピッタリと重なったのです。
だから、何を言われても我慢できました。
しかし、口には出さないものの、決心しました。
「インセンティブさえ全て貰ったら、こんな会社辞めてやる」と・・・・・。

しかし、予想外の展開です。
2ヵ月後、Nさんが会社を去ることになりました。
自ら去っていったのです。
Nさんも、私と同様、心の奥に深い闇を抱えているのでした。
おそらく、その心の闇に突き動かされて、激しい怒りが出てきているのです。
そして、それが原因で、自ら去っていくのでした。

Nさんが、何故、自ら去っていたのか?
リーダーを失った、コミュニケーションラインは、どうなってしまうのか?

次回に続く

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