人見知りの私が社長になるまで 第十三話

戦いの第一ラウンドはNからの予想外の
先制攻撃により引き分けに終わり、
戦いは第二ラウンドへ
しかし、またもNの意外な行動で、
予想しえない展開に巻き込まれる
果たしてNの真の狙いは何なのか・・・

唐突ですが、あなたは予言を信じますか?
私は、25才まで予言を信じていました。

「1999年7の月、恐怖の大王が降ってきて
 人類は滅亡する」
というノストラダムスの大予言をずっと信じていました。

「どうせ25才で、恐怖の大王に殺されるのだから、
 思い切った生き方をしよう」と思い、
21才でサラリーマンを辞め、独立起業をすべく
様々なチャレンジをしました。

恐怖の大王が降ってくれば、チャラになるのだからと思い、
借金も重ねました。

しかし、不幸な事に、失礼、人類としては幸運な事に、
恐怖の大王は降って来ませんでした。
人類は大丈夫でした。
ノストラダムスの予言は、大はずれに終わりました。
これをきっかけに、予言の類は疑うようになりました。

しかし、かなりの高確率であたる予言もあります。
的中する様は、いままで沢山見てきました。

どんな予言が当たるのか?

それは、ネガティブな思い込みによる自分への予言です。
「どうせ自分は○○だから、○○になるだろう」という思い込みです。

例えば、「自分は魅力がないから、一生モテないだろう」という
思い込みがあったとします。

その思い込みが、行動に影響します。例えば服を買い行ったとします。
そこで店員から、少し派手な服を薦められたとします。

「これ○○さまにきっとお似合いですから、試着しませんか?」と、
しかし、魅力がないという思い込みが邪魔をします。

「自分は魅力がないから、こんな派手な服は似合うはずがない」ということで、
結局は、いつもの地味な服を選び、鏡に映った姿を見て、
「やっぱり地味な服装が自分にはピッタリ」と納得します。

そして、魅力が出ないように自ら行動しているので、
結果、本当にモテない人生を歩みます。
わかりやすくする為、極端な表現をしましたが、

つまり、予言が自ら当たるように行動しているのです。
ある意味、自作自演です。

あなたの今までの人生経験から思い当たる節はありませんか?
あなたには、どんな思い込みがありますか?

人には、それぞれ様々な思い込みがあります。
思い込みが人生を創ります。

Nさんにも、強烈な思い込みがありました。
それは「やがて自分から人が去っていく」という思い込みです。
悲しい思い込みです。

Nさんは飲みに行って酔っ払うと、幼少のころの話をよくしました。
Nさんは幼いころ、両親が離婚し、母一人子一人だったようです。
たった一人の両親。お母さんも、まだ物心がついて間もないNさんを
おばあちゃんに預けて、新しく出来た男と連絡先も告げずどっかに行ってしまったようです。
去り際も「ママ~!ママ~!行かないで~!」と泣き叫ぶNさんを尻目に、たったの一度も振り返りもせず、足早に夕陽の向こうに消えていった、
とNさんは夕陽のように目を真っ赤にして話しました。

この幼少の悲しい体験が、「やがては自分から人が去っていく」
「愛する人はやがて去っていく」という思い込みを作ったようです。

その思い込みの良い作用としては、Nさんは持ち前の巧みな交渉術で、取引先から良い条件を勝ち取り、皆を喜ばせます。

しかし、悪い作用としては、自分から離れていかないよう、いろんなルール
や縛りを作ります。これが嫌で逆に人が離れていくのですが、本人は気づいていません。

そのNさんの思い込みが、誰もが予想していない行動を取らせました。
ある日突然、Nさんが全員に向け言いました。

「自分の夢は、NTTの一次代理店になること。一次代理店になれるチャンスが
 あったので、この会社から去る」

本当に予想外の行動でした。Nさんには、もの凄く見栄えに拘るという
一面もありました。

Nさんは、常々「NTTの一次代理店になりたい」と言っていました。
理由を尋ねると「ステータスがあるから」それだけです。

おそらくは深層心理で、ステータスを高めることで、お母さんが戻ってきてくれる
お母さんが振り向いてくれる、という思いがあったのかもしれません。

NTTの一次代理店の会社があって、Nさんはずっと前から、その会社と交渉し、
一時代理店の権利を譲渡して貰えることが決まったようです。

Nさんが自ら去ることと、思い込みがどう関係あるのか?ですが、
これも推測ですが、
「どうせ、やがて自分から人は去っていくのだから、そんな辛い思いをするぐらいなら
 先に自分から去ってやる」という心情だと思います。

出て行って欲しかった人間が、自ら出て行くというのですから、
願ったり叶ったりです。

Nさんを気にして、口には出さないものの、
間違いなく全員が内心は喜んでいました。

Nさんは、2週間後に出て行くことになりました。
Nさんが事務所に居ない時を見計らって、Nさんがいなくなった後の
会社体制を全員で話し合いました。

今までいろんな意味で、Nさんを恐れていましたし、押さえつけられて
いましたから、それがなくなったことで、こうしよう!ああしよう!と
話し合いは盛りあがりました。

そして、あと三日でNさんがいなくなるというところで、
事件が起きてしまいました。

ある日、全員でまた会議をしていました。
タイミングが悪く、会議中にNさんは事務所に戻ってきたのです。
Nさんは後片付けをしていました。

Nさんは「気にしなくていいから会議続けたらいいよ」と言ってくれました。

とは言うものの、全員はNさんを気にして、恐る恐る話し合いをしました。

しかし、時間が経つにつれ、Nさんの存在を忘れてしまい、会議が盛り上がり、
皆で笑い声をあげてしまいました。

すると、Nさんが、突然激怒しました。
手に持っていた書類の束を、床に激しく叩きつけ言いました。

「お前ら、俺の気持ちがわからんのか!!だったら、わからせてやるから
 覚えておけ!!」と一方的に言い放ち、事務所を飛び出しました。

最悪の事態発生です。果たしてNさんが、どんな報復に出るのか?
全員戦々恐々です。

そして、次の日、Nさんから私の携帯に電話がありました。
Nさんは恐喝にならないよう慎重に言葉を選びながら言いました。

「あなた達は、私の気持ちを全く理解していないことがわかりました。
 それならば、今までの私の働きを金銭で評価して、退職金として今月末までに
 振り込んでください。その金額が過小評価であれば自分で評価した正当な金額を
 会社の口座から自分で振込みます。全員で話し合って正当な金額を決めて連絡下さい。
 現在も当然私が代表ですから、会社の実印と通帳は預かります」

Nさんは淡々とした事務的な口調でしたが、心の中では、吹き上がるマグマのような
怒りと憤りがあることを、言葉の節々で感じ取ることは容易でした。

本当に最悪な状態です。
今までの稼ぎが、Nさんに全て奪われるというピンチです。
もちろん会社も潰れます。

こうして第二ラウンドの戦いの火蓋が切られたのでした。

Nの要求に対し、具体的にどれだけの金額を提示したのか・・・
Nはそれで納得したのか・・・
Nから、どうやって会社の実印と通帳を奪還したのか・・・

次回に続く

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