人見知りの私が社長になるまで 第五話

これまでのお話

独立起業した山本は「自己管理のワナ」と「品質のワナ」にはまってしまい、山積みの電話帳と借金で苦しむコトに。「いつかこの経験が財産になる」と信じていた山本が次に出会ったのは、訪問販売業界で伝説の人、Y氏。通称、「鬼」であった、、、


また一から営業を学ぼうという思いで、Yさんの立ち上げる浄水器販売会社に入社することになりました。当時は、浄水器がブームになっており、浄水器販売で上場を果たした会社もありました。しかし、同時に浄水器販売は、成長期が終わりに近づき、陰りが見えている頃でもありました。

会社設立は2ヵ月後ということもあり、それまではYさんの指令で、他社の浄水器販売会社にスパイとして潜入することに。受けた指令は2つあり、最新のトークを盗む事とトップセールスマンを引き抜く事です。自分自身は「スパイなんか、いやだなー」と思い、断りの言葉を口に出そうとした時、Yさんが一瞬にして「鬼」の様な表情になり、結局は断れず。これが、初めて「鬼のY」を垣間見た瞬間でした。この後、何度も「鬼のY」を見る事になろうとは・・・・。

とりあえず、Yさんが昔に営業指導をした事のある、新大阪の某浄水器販売会社に潜入することになりました。早速、応募をして、面接に。
面接中も、スパイと言う事がばれないかドキドキしながら、面接官の質問に答えていましたが、「訪問販売業界は、面接に来れば合格、とりあえず誰でも入れる」とYさんが言っていた通り、問題なく面接は合格。
入社一週間は、社内でトークを徹底的に覚える事でした。

そのトークが、恐ろしいほど長く、A4で15ページ程ありました。
アプローチから始まって、商品説明、クロージング、そして、一般家庭訪販特有の 「主人返し」というものがありました。主人返しとは、奥さんが最後によく言う言葉、「主人に相談しないと・・・・」を切り返す必殺トークです。それが、ここの会社ならではのノウハウでした。
訪問販売は、主人に相談されると大体は決まらないので、奥さんだけで、決めてもらうようにするトークです。

それはどんなかと言うと、「奥さんが、指輪とか服を買うのでしたら、相談しないといけないと思いますが、浄水器は家族全体の健康の為に買うものですから、家族の健康は奥さんが管理するものです。
だから、奥さんが決めても大丈夫です。ご主人さんも、パチンコやタバコとか飲みに行くとかで、無駄使いしていませんか?そんな無駄使いしているのでしたら、たった月3000円、一日100円で済みますから、家族の健康の為に使いましょう」というトークです。実際、後で使いましたが、非常に効果のあるトークでした。
とにかく、全15ページのトークを、事務所内でウロウロしながらブツブツ言いながら覚えました。

そして、入社4日目ですが、初めて社長が出社してきました。
年齢は50歳ぐらいで、すごく貫禄とカリスマ性を感じる人でした。
朝礼での第一声も、「うお~っす」と地響きがするぐらいのドスの効いた大きな声でした。
そして、朝礼後なぜか社長から呼び出されました。
「もしかして、スパイがばれたかも」と思いましたが、
「いや、ばれる様なことはしていない。大丈夫」
と思い直し社長室へ。
何を聞かれるのかドキドキしていましたが、まずは前職何をしていたのか等の2~3分の雑談でした。
しかし、次の瞬間、最悪の予想が的中した言葉が、社長の口から飛び出してきました。「うちは、業界でも有名なので、同業者がよく潜りこんで来る」と言いながら、全てを見透かすような目でジーと見つめてきました。
自分も目をそらしてはいけないとい思い、ジーと見続けました。社長は続けて「営業トークは、持って行きたければ持っていけばいいと思っている。どうせ、どこかで流出するから。
紙のトークだけで本質がわかるはずがない」と最後に言われ、社長との面談は終了。
「ばれたのか」いや「全員にいつも言っていることなのか」といろいろ考えが巡り、自分の頭は混乱しました。しかし、その後に事務員から告げられた言葉で、答えがでました。それは、「来週から、3ヶ月間、九州営業所に行ってください」と唐突に言われた事です。
やっぱり疑われていると確信しました。
さすがに、スパイ活動で九州までは行けないので「面接で、九州に行く事は聞いていない」を理由に退社することにしました。
結局、二つの指令である「最新のトークを盗む」は成功しましたが、「トップセールスマンを引き抜く」という指令は、失敗。

あきらかに、Yさんは不服そうで、容赦なく次の指令が。「次は、この会社に潜り込んで来い」と。しかし、スパイで潜り込んでも、給料が貰えるかどうかわからなく、借金が返せなくなるので、「もうスパイだけは勘弁して下さい」と必死に断りました。何とか断ることには成功しましたが、そのかわり、一ヵ月後の入社までの宿題として、トークを完璧に覚えるという指令が与えられました。トークは、A4で15枚ほどありました。しかし、迫りくる借金返済で休みなくアルバイトをした為、覚える暇がありません。そこで、自分の声で録音したトークを、警備のアルバイト中に四六時中聞き続けました。それで、何とか入社までに完璧に覚える事に成功。

そして、ついに入社初日がやってきました。同期の新入社員が15名。みんな、職安や求人誌から来た人です。パッと見て、営業が出来そうな人はいません。しかも、Yさんの指令で、入社前にトークを覚えていましたから、みんなより一歩リード。「この中では、自分がトップになるのは間違いない」と秘かに思っていました。

入社一週間は、トークを覚える期間です。1ページを覚えたら、Yさんの前で紙を見ずに、トーク通り言えるかのテストを繰り返しました。自分以外は、1ページを覚えるのに3時間以上かかっていましたが、自分だけは、わざと覚えるふりをして、1時間くらいでテストし次々と合格していきました。Yさんの作戦で、自分だけ事前にトークを覚えていた、と言う事は内緒にする事になっていました。
Yさんの狙いは成功で「山本に負けていられない」と、みんなもすごいスピードで覚えていきました。

そして、1週間が経過しようやく営業開始。まずは、事務所近くの団地から回る事になりました。 団地は5階建てでエレベーターがありません。しかし、Yさんのモットーは「常に走る」です。5階まで一気に走って階段を上りました。疲れて歩いているのをYさんに見みつかると、「走れ~」と怒鳴られました。
みんな、初オーダーは自分が取るという意気込みで一軒一軒「浄化水のご案内で~」と叩き続けました。営業開始から3時間後ついに初オーダーが。

それは、残念ながら自分ではありませんでした。
初日は、結局1台だけでしたが、次の日も、また次の日も自分以外から、オーダーが出続けました。
そして、とうとう売れていないのは、自分を含め2人だけになってしまいました。もう一人は、高校中退の17歳の女の子です。Yさんの自分を見る目が、日に日に怖くなってきました。そして、最悪な事に17歳の女の子もついに初オーダーを。
ついに、売れていないのは自分だけに。Yさんの自分への期待が、失望に変わったのを、手に取る様にわかりました。自分が売れない理由は、はっきりしていました。それは、人見知りで仲良くなれないからです。法人営業とは違い、奥さんといかに仲良くなれるかが、訪問販売では重要なのです。それが、うまく出来る人程売れていました。
ただ、へたな鉄砲も数打てばあたるもので、ある日ようやく1台売れました。しかし、他の営業マンは、既に3台、4台と売っていました。そして、1ヶ月経過後、販売台数4台と営業成績はビリに終わりました。高校中退の女の子や、  元ヤンキーで学校には、ほとんど行っていなくて、漢字もろくに読めない男の子にも負けてしまいました。
「N社で、全国3位」という営業に対する自信が、脆くも崩れ去る事に。
そして、同時に営業の厳しさが身に染みてわかりました。

あと、一般家庭への訪問販売ならではの、生々しい出来事を数多く体験しましたが、一番印象に残っている出来事を紹介します。

「暴力事件」

少し高級そうなマンションに訪問。何件目かで、ドアが開き中へ。そこには、大人しそうな奥様がいました。たまたま、浄水器の購入を考えていたらしく、最初から、興味を持って聞いていました。ただ、最後に「主人に相談しないと・・・・・・」と言われました。このまま相談されても、決まりません。そこで、必殺の「主人返し」を使いました。
「それも、そやなー。じゃあ、買うわ」と恐ろしいほどに見事に決まりました。その場で、浄水器を設置し次のマンションへ。
しかし、しばらくしてから、会社から電話があり、「さっきの所に電話するように」と。早速電話すると、奥さんが、すすり泣きながら「やっぱり、浄水器返すからすぐ来て」と言われ、再度訪問しました。
ガチャっとドアが開いて、奥さんの顔を見た瞬間びっくりしました。
なんと、奥さんはご主人から殴られたらしく、鼻血と涙でぐちゃぐちゃな顔をしていました。
ご主人は、真っ赤な顔で「今すぐ持って帰れ~」と怒鳴り散らしていましたが、奥さんは、しきりに「ごめんね、ごめんね」と謝っていました。自分が「主人返し」をしなければ、奥さんが殴られる事がなかったと、心が痛みました。

話を本題に戻します。

入社して、2ヶ月目「鬼のY」の本領発揮は、ここからです。
どうしても、全員がなかなか売れない日がありました。しかし、Yさんはそれが許せないようでした。誰かが売れるまでは、帰れません。
夜中の2時まで、「遅くなって、すませ~ん」と訪問しました。
訪問販売法違反です。
当然、寝ている人が多く、「何を考えているんや~」とこっぴどく怒られました。
そして、翌日には、2~3人の営業マンは出社してこなくなりました。
あと、営業者の運転はいつもYさんがしていました。Yさんの隣、助手席はお説教席でした。営業終了後、Yさんの指名で助手席に座る営業マンは、お説教コースです。事務所に着くまで、怒鳴られ続けます。
そして、翌日その席に座っていた営業マンは出社してこなくなる事が何度もありました。
そうして、どんどん営業マンが減っていきました。自分も、つらくて辞めようと何度も思いましたが、営業を学ぶためと自分に言い聞かせて、ギリギリで耐えていました。
しかし、ある日の事です。風邪を引いてしまい39度の熱が出ました。
会社を休む為、電話をすると、Yさんが電話に出ました。「すいません。熱があるので休ませてください」というと「本当に熱があるのか?熱があるなら会社まで見せに来い」とガッチャンと電話をきられました。これで、とうとう我慢の糸もプッツリと切れてしまい、退社する事に。
Yさんは、どんなに熱があっても休む事なく、2年間売り続けた記録を持っている人です。自分に厳しく、人にも厳しい人でした。だからこそ、「鬼のY」と言われたのでしょう。
結局、15名いた営業マンも、2名しか残らなかったようです。
ただし、残った2名は毎月20台浄水器を売るスーパー営業マンになったようです。

そんな訳で、3度目のフリーター生活に逆戻りです。今度は、佐川急便の荷物仕分けのアルバイトをして、日銭を稼ぎました。
しかし、年利26%の金利がついた借金は、毎月10万返済しても、金利だけで7万。元金が減るのは、たったの3万です。いっこうに元金が減りません。

プロミスから、送られてくる返済予定表を見ては「一気に稼いで、一気に返済しなくては」と思っていました。
そんなある日、求人誌を見ていたら「月収100万可能、固定給50万から」とウソのような、募集広告が目に入りました。
「どうせ、何かカラクリがあるだろう」という思いがありましたが、少しだけ期待しながら面接に行きました。

仕事内容は、NTTコミュニケーションズのアダプター営業。しかし、固定給50万ではなく、よくよく聞くとフルコミッション。案の定、カラクリが。面接は社長がしていましたが、「普通に営業したら、50万は稼げるので、
ある意味、固定給みたいなものです」と苦しい言い訳。
社長は続けて「グラフを見てください。1000回線以上取っている営業マンもいますよ~(電卓を叩きながら)月収250万ですよ~」と興奮しながら言っていました。
確かに、グラフを見てみると営業マンが軒並み400回線以上取っていました。
ただ、このグラフが本当なのか確証はありません。
社長は最後に「やる気があれば採用するけど、どうする?」と。どっから見ても怪しさ120%で、一瞬迷いましたが、騙されてもいいやー、という思いで「頑張りますので、働かせて下さい。」と答えることに。

この選択は、大正解でした。

なぜなら、ここでコミュニケーションライン創業メンバーと出会ったからです。
どういう流れで、
コミュニケーションライン創業に至ったのか・・・・
どんな、仲間と出会ったのか・・・・・・

次号に続く


追伸

当初は5話目が最終回の
予定でしたが、いざ書いて
みると、まだまだ収まりません。恐らく、後2~3回は続きます。

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